君とならどこへでも
鯉登の仕事が休暇のある日、鯉登の部下の自宅に夫婦共々招待された。
なんでもお昼ご飯をご馳走いただけるらしい。
せっかく招待いただいたのだからと、鯉登とナマエはある晴れた秋の日の朝、その部下の自宅を目指して出発した。
その部下の自宅は、鯉登の自宅がある旭川の近郊にあるものの、少し辺鄙な場所にあった。
加えて、鯉登だけではなくナマエも一緒に行く。自身の脚ではそんなに時間もかからないが、ナマエの体力を考えると、ところどころ休みを入れて向かった方が良いだろうと鯉登は考え、早めに家を出たのだった。
差し上げるための手土産やその他細かい手荷物などは、すべてまとめて鯉登が持つ。
場所も鯉登のみが把握しているため、ナマエを先導する形で歩いていた。
部下宅への道はおおよそは整備されていたが、近づくにつれてだんだんと山間へと入り、獣道程になる。
秋の折、見事な紅葉に目を見張ったが、その分落ち葉も多い。
落ち葉が積み重なり、足元が不安定になってきたため、ナマエを気遣った鯉登は頻繁に木陰や岩場などで休憩した。
そのうち、どこからか水が流れる音が聞こえたかと思うと、さほど時間を置かずに小川に出た。
小川はナマエでも頑張れば飛び越えられそうな幅だ。
「この川が目印でな、これを超えればあいつの家も近いぞ。」
鯉登はナマエに声をかけてやると、まずは自分がさっと飛び越え、振り返ってまだ向こう岸にいるナマエに手を差し出す。
彼女は差し出された鯉登の手を支えに飛び越えようとするが、なかなか勇気が出ない。
「うーん、私渡れるかな、ここ。」
「だいじょっよ。おいがしっかい支えるから。」
「…やっぱり私あっちの方から回ってくるよ。」
少しの間奮闘したナマエだったが、どうしても踏ん切りのつかなかった彼女は諦めて、鯉登の手を離す。
川の流れからもう少し幅が狭くなりそうな方角に見当をつけてそちらを向いた。
するとその瞬間、自分の身体がふわりと浮く。
「———きゃっ!」
突然のことで何が起きたかわからないナマエは小さな声で驚いた。
「しかたなか。」
ナマエのことを姫抱きにかかえ小さく呟いた鯉登は、軽々とナマエの渡れなかった小川を飛び越えた。
身長の高い鯉登に抱えられたナマエは目線が高いことと飛び越えるときの衝撃に怖さを感じ、思わず鯉登のしっかりした男らしく太い首元にぎゅっと腕を回す。
小川を飛び越えた鯉登はそのまま足元の比較的整った場所まで行き、かかえていたナマエを下ろすと軽く乱れた自身の髪と服装を整えて、彼女をかかえるために岸にある岩の上へ置いた荷物を取りに行った。
一人残されたナマエは、触れ合ったときの鯉登の体温や清潔感のある彼の香りを思い出し、思わず赤面する。
「———////」
そんなのナマエことなどつゆ知らず、置いていた荷物を取って戻ってきた鯉登は彼女の顔を見てニカッと笑う。
「さぁ、ちょうど良い頃合いだ。行くぞ。…なんでそんな顔が赤いんだ? もみじみたいだぞ。」
(そんなのあなたがかっこよすぎるからですよ、なんて言えるわけない!)
「べ、別になんでもないよ!」
「そうか?なら良いんじゃが。」
不思議そうに鯉登は顔を傾げるも、今までと同様にの前ナマエを先導して進む。
先を行く鯉登の大きい背中を見てナマエは思った。
無意識の振る舞いが一番かっこいい。
END
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