冬に向けた支度(お礼編)
「よし、やるぞ!」
秋も深まり冬の気配が確実に近づく頃、鯉登家の居間では毛糸と編み棒を前にして、ナマエが気合を入れるために独り言をつぶやいていた。
鯉登は当番で勤務に出ているので、家にはナマエひとりだけである。
(この前は音くんに素敵な羽織物を買ってもらったから、何かお礼をお返ししたいな。)
先日、本格的な冬仕様の羽織物を持ってきていないというナマエに、鯉登が上等な羽織物を買ってあげた。
何かお礼をしたいと思ったナマエは、冬も近づく今日この頃、鯉登もあまり寒さが得意ではないことに一緒に暮らしているうちに気がついた。
(そうだ、音くんがいつも着ている陸軍の制服の、白シャツの上から着られるようなあったかい、西洋のセーター?という洋服を編んで、贈り物として渡そう! 驚かせたいから音くんには内緒で。喜んでくれると良いな。)
見ているだけでも暖かそうな羊毛を使った毛糸を商店で買い、家に元々あった編み棒を準備してさっそく作業に取り掛かる。
だが、早いうちにナマエの手が止まった。
(音くんの腕の大きさとか長さとかって、どれくらいだったっけ…? というか胴回りの寸法とか肩幅とかもわからない…!)
作るべき洋服の寸法がよくわからないことに、今更気づく。
必死で今までの記憶を総動員させながら、鯉登の体の大きさを思い出そうとするナマエ。
だが、正確な身体の大きさを思い出そうとすればするほど、鯉登との一糸纏わない夜半の情事を思い出してしまい、ひとり恥ずかしい気持ちになる。
(いや、思い出そうとしても無理! せっかく良い毛糸を買ったのだから、ちゃんと測ろう!)
ただ、測ろうといっても、面と向かって鯉登にお願いすると、本人に洋服を編もうとしているがわかってしまう。
できれば、本人には知られずに突然編んだ洋服を渡してびっくりさせたいという気持ちがあったナマエは、結局鯉登が帰宅して、夜寝静まった頃にそっと測ろうと決意し、鯉登の帰りを今か今かと待った。
すぅ———。
その日の夜、帰ってきた鯉登はいつものように夕食を食べ、お風呂に入り、それほど遅くない時間には床についた。
普段であれば、鯉登とともに寝に入るナマエであったが、今日は寸法を調べるために鯉登と一緒のタイミングで寝たふりをして、鯉登が寝入るのを待つ。
鯉登の寝息を聞き、ちゃんと眠りに入っていることを確認したナマエは、まず肩幅を測るために仰向けで寝ている鯉登の両肩の上に両手をついて、半ば覆いかぶさる体勢になる。
(結構測るの難しい…! 腕も疲れる!)
ただでさえ、人様の体の寸法を調べるということに慣れていない上、鯉登を起こさないように事を運ぶ必要がある。
鯉登が寝返りをうったり、途中で寝息が止まったりするなど目が覚めたように思える挙動をするたびに、どきどきしながらなんとか苦労をして肩幅と肩の厚みを測ったナマエは、次に胸囲を測るため、鯉登の両肩の上についていた手を、今度は腕と体の間、わきの下に移動させる。
脚は最初鯉登の布団の端に置いていたが、それだと腕の負担が大きいため、脚も鯉登の体を両側から挟むような位置に置き、完全に覆いかぶさる姿勢になった。
———その同時刻。
(こん状況は一体なんだ!?)
ナマエが寸法を測り始めた頃、鯉登は自身の顔や身体にふと違和感を覚えたため、早いうちに目が覚めた。
目をうっすら開けると、先ほど「おやすみ」と言って一緒に寝に入ったはずのナマエが、なぜか自分のことを押し倒すような格好で何やらぶつぶつ呟いている。
(こや俗に言夜這いちゅうやつか…? でもナマエに限って、そやないはずじゃ。普段そういうことすんときも、恥ずかしがってとても自分から何かできるような状態じゃなかて。)
混乱した頭で鯉登は一生懸命、今のこの状態について分析し考えようとした。
だが、鯉登が起きていると気づかないままのナマエは、鯉登の胸囲を測るために自分の身体を鯉登に押し付けて、腕を鯉登の背中に回そうとする。
そうするとナマエの柔らかい胸の感触が伝わり、全く別のことを考えようとしても、鯉登の若い身体は反応してしまい熱が集まる。
このままだとまずい、そう感じた鯉登は突然自らの身体をがばっと起こして、ナマエの肩を掴む。
「さっきから、何よしちょっ!?」
ナマエは突然鯉登が起きたことに驚き、一瞬言葉を失う。
それと同時に、
(できれば洋服を送ろうとしていることは、なんとしても隠しておきたい…!)
そう思い、答えに困ってしばらく沈黙するナマエを見て、鯉登は純粋な疑問を彼女にぶつける。
「やっぱい夜這いなんか…?」
「え!? そんなわけないよ!!」
「じゃあ、なんでさっきからこん体勢でこそこそしちょっんだ?」
さすがに、そう鯉登から問い詰められるとナマエも観念するしかなく、真意を明かした。
「実は今、音くんのためにセーターを編んでるから、採寸がしたかっただけです。」
本当は内緒にしておきたかったのに、と不満げな顔で口をとがらせながらナマエは言う。
そんなナマエを見て、可愛らしいと思う気持ちがする反面、自覚なく鯉登をきわどい手つきで触り反応させたナマエに憎らしいという気持ちも少なからずあり、鯉登は少し意地悪してやりたくなった。
鯉登は自分に覆いかぶさっているナマエの腰をよっと持ち上げ脚をひらき、自身も座るように起き上がると、ナマエを自分と向い合せで座るようにさせる。
「きゃっ!」
脚が開かされて、太ももまで露わになった感覚にナマエは赤面し、甲高い声を上げる。
「ちょっと、音くんやめて!すぐ降ろして。」
「じゃっとん、こっちん方が測りやしじゃろ。」
自分の上から降りようと暴れるナマエのことを、優しくではあるがしっかり自身の腕で抑えつけて、彼女の耳元で低く囁く。
低い声が鼓膜から体の奥底に響き渡るような感覚がして、ナマエはぞくっと体を震わせる。
そんなナマエを見て、鯉登はいつもは彼女の前ではできる限り紳士的に振る舞おうと心がけている自身の胸が若干痛むのを感じる。
が、突然のナマエの所業に意図せず自身の欲望を掻き立てられてしまった手前、引くこともできない。
(これくれせんな、割に合わん。)
「ほら、採寸はよかと?」
鯉登はそう言うと、試すように笑って至近距離からナマエを見つめる。
ナマエは本当にこのまま何もなく測らせてもらえるわけはないだろうと訝しんだが、採寸しないことには肝心のセーターを編み始めることもできないため、おずおずと鯉登の身体に腕を回し、胸囲を測りだす。
はたから見ると向い合せで座って抱きしめ合っているように見える格好であり、鯉登はたまらず腕を回したままのナマエの顔を、親指と人差し指で優しく掴み、口付けした。
何度か口付けを重ねると、ナマエは本能的に鯉登に回していた腕を、さらにきつくぎゅっと抱きしめる。
そのナマエの仕草がいじらしく思え、崩れかけていた鯉登の理性は無惨にもふき飛んだ。
鯉登は口付けをどんどん深くしていき、ナマエの寝間着の間から既に露わになっている白い脚をまさぐって、自分とは異なる柔らかさを堪能する。
ナマエの背中に腕を回し、寝間着の肩の部分の布を引っ張って上半身の布をゆるめ、はだけさせると、彼女の色白な肌が露わになった。
ナマエの柔らかい感触を堪能し、興奮した鯉登は、口付けを唇から徐々に下におろし、首筋から胸元にかけて舌を這わせる。
敏感なところを舌でなぞられたナマエは、身体を小刻みにして感じ、甘い吐息を吐く。
鯉登ははだけたナマエの寝間着の袷に右手を滑り込ませ、柔らかな胸を揉むと、ゆっくり寝間着をはいでやり、先ほどまで自身が寝ていた布団に彼女を押し倒す。
「今日に限っては、わいが悪かどでな。」
自分の下で既に快楽で目が潤んでいるナマエを、余裕ない表情で見下ろし、熱っぽく言う。
理性がきかなくなった鯉登は、そのあと一晩中ナマエのことを可愛がった———。
後日———。
無事に鯉登の採寸を終えたナマエは、セーターを編み上げ、鯉登に渡した。
初めてナマエから手編みの贈り物をもらった鯉登はそれはたいそう喜び、部下である月島軍曹に会うたびに、「ほら、見ろ月島ァ!これを着ているから私は今日寒くない!良いだろう!」と、これ見よがしに自慢をしたという。
END
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます