私は今すぐ君に会いたい
「今の話は本当か?」
「はい、私のいる時代では日本という国は先の大戦での敗戦時になくなり、今は植民地支配を受けています。日本語も第二言語です。」
「……。」
「ただ、私は歴史を勉強する中でどうしてもこの時代の自分の国を見たくて、高いお金を出して今回タイムトラベルをしてきたんです。」
タイムトラベルした先は、明治時代のまだ私の国が『日本』と呼ばれていた頃の北海道。
場所の設定が誤っており、第7師団の兵舎内に突然タイムスリップしてきた私を、鯉登少尉、と皆から呼ばれる人が尋問した。それが、鯉登さんと私の出会い。
尋問という最悪な出会いではあったけれど、兵舎に匿われる中で、真っ直ぐで人懐っこい彼にすぐに惹かれていった。
色々な場所にも連れていってもらったし、色々な美味しい食べ物も教えてもらった。
日本の伝統工芸の着物も、いくつか彼に仕立ててもらった。
「とても綺麗だ、ナマエ。」
微笑む貴方の顔が大好きだった。
でも、タイムトラベルには時間の制限がある。
最終日、涙が止まらない私を抱きしめながら、耳元で鯉登さんは言った。
「私がナマエの生きる時代まで、この国を守り抜くと誓おう。」と。
そして、私は震える指でタイムトラベラーのスイッチを押した。
元の時代に戻った私は驚愕した。日本語を母国語とした、『日本』という国が残っていたのだ。
調べたところ、大戦中に第7師団が大陸の侵攻を食い止めたのが、敗戦交渉に一役かったらしい。
「鯉登さん…本当に約束を守ってくれたんだ…。」
私は鯉登さんの生きた証を感じたいという気持ちが抑えきれず、北海道の旭川に飛んだ。
第7師団の兵舎があった場所には、今も当時の歴史を伝えるため、記念館が立っている。
記念館の横にある石碑を見ると、最後の第7師団長として鯉登さんの名前が彫られていた。
「鯉登さん……。」
彼が、私と時代は違えど、確かに同じ世界で生きていたのを感じ、泣きそうになるのを堪えて、私は記念館に入り2階の展示室を見て回る。
そこには鯉登さんが持っていた装備品や着ていた軍服などが展示されていて、一緒に過ごした時間を思い出しては感傷に浸る。
すると、とある展示品の前で急に足が止まった。
そこには、見覚えのある綺麗な整った字で書かれた一通の手紙が展示されていた。
宛先不明とされるその手紙には、
[太平の時代に生きる君へ]という書き出しで、
[君が生きる時代には、あの時一緒に食べたあんぱんや団子は残っているだろうか。君に仕立てたような着物は残っているだろうか。]
とある。
(これって、鯉登さんが私にしてくれたことだ。)
手紙には2人の思い出のものや場所が書かれており、私は視界が滲む中、手紙を読み進める。
[君と過ごしたこの国が永く続き、君が生きる時代が太平の時代であらんことを願う。]
[そして、 。]
最後の文章を読んで、私は溢れ出る涙を止められず、その場で動けなくなり、人目も憚らずに展示スペースの真ん中にうずくまる。
こんなにも、あたたかくて大きくて深い愛はあるだろうか。
「鯉登さん、ありがとう…。私もですよ、」
時を超えてく想いがある。今日も私は貴方が守ってくれたこの国で、生きていく。
END
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます