第1回コイトオトノシン争奪戦
12月23日———。
その来るエックスデーを前にして、寒い師走の折に、熱い火蓋が今、切られようとしていた—。
そもそもの事の発端は、師走の初めに開かれた飲み会で、音之進が何気なく発した言葉だった。
「今年の私の誕生日は平日だろう。みんな仕事もあるだろうから、無理して祝わなくてよい。」
飲み会メンバーの月島、ナマエと、ちょうど近くにいるからと飲み会の後半に顔を出した平之丞の3人は、その言葉を聞いて、ショックが隠しきれないという表情で、音之進の顔を見つめる。
平(音のやつ、無理しちょって…。本当は祝うてほしかんじゃなかとけ?)
月(そんな…、自分は去年から鯉登さんの誕生日を祝う準備を進めていたんですよ!)
ナマエ(付き合って初めての誕生日だからちゃんと祝わいたい…!)
そんな激重感情を抱くそれぞれの思いを知ってか知らずか、音之進はさらに話を進める。
「私も当日は仕事が定時後まで入っていて忙しそうだから、帰りは21時前後くらいになるだろう。」
つまり、、、
平、月、ナマエ(((祝えるのは当日21時からの限られた時間しかない、ということ(ね)!??)))
「でも、鯉登さんは当日は早く帰っていただいても大丈夫ですよ?残りの仕事は、私たち部下に任せても…。」
「そういうわけにもいかんのだ。直接私から話が聞きたいと、クライアントから23日の定時後に、向こうのオフィスに呼ばれていてな。」
「くっ…!(あそこのクライアント、俺ではなく鯉登さんに直接連絡してきたのか…!)」
月島は、せっかく自分が数か月前から鯉登の仕事量を調整していたというのに、突然のクライアントの依頼に対処しきれなかった己の不甲斐なさを悔やむ。
そんな月島を尻目に、平之丞はさらりと言ってのけた。
「じゃあ、21時よりも前に音ん家に行って待っちょっじゃ。」
「え、お兄さんも来るんですか?」
驚いたナマエは(たしかに、兄弟仲は良いと思ってたけど、)と思わず平之丞に尋ねる。
「じゃっど。いつもは音ん誕生日前後の休みに行っどん、どん日も今年は平日じゃっで。ん?お兄さんも、ということは…?」
「私も音くんの誕生日は当日に祝いたいな、って思ってました。一応、彼女になって初めての誕生日だし…。」
お互い23日当日、音之進の誕生日を自分が祝うと信じて疑わない平之丞とナマエは、しばしの間無言で見つめ合う。
答えのないその見つめ合いの末、音之進の反応が気になり、彼の方を見やった。
音之進は腕を組んで何やら思案した顔で、物思いにふけっているようだった。
そこに、月島も割って入る。
「あの…、実は自分も鯉登さんの誕生日に向けて、昨年末から用意してきたものがあるのですが…。」
「昨年末って!月島さん、去年の音くんの誕生日から一年間かけて準備してきたんですか!?」
「あぁ、もちろん。気合じゃ負けないぞ。」
当たり前という風にどや顔で話す月島を、ぐぬぬと悔しそうに見つめる咲良。
ナマエは自分よりも音之進に対して重い愛情を抱いており、当日祝うつもりの人物が、少なくとも2人はいるというこの状況に眩暈がした。
いったい誰が12月23日の当日、音之進の誕生日を祝えるのか—。
しばらく膠着状態が続いていると、隣のテーブルで尾形、宇佐美と飲んでいた杉元が、こちらのテーブルのただならぬ気配を察知して、近づいてくる。
「何だよ、みんなそんな辛気臭い顔して。せっかくの飲み会なんだから、楽しく飲もうよ!」
そう笑顔で明るく言う杉元だが、やはりテーブルにいる3人の表情は真剣そのもので、音之進も何やら憂い顔だ。
「なになに?みんなボンボンに嫌なことでも言われた?」
「そんなわけないだろう!実は———、」
たまらず月島が今までの経緯を説明し、杉元はそれを聞いて、なんとなく状況を察する。
(なるほど、それで鯉登もあんな顔しているわけか…。それじゃあ、)
杉元はいきなりある提案を3人にする。
「誰が当日、鯉登の誕生日を祝えるか勝負するっていうのは?」
何を言っているのかわからない3人と音之進は、「はぁ???」という顔で杉元を見つめる。
「勝負ちゅうたぁ何じゃ。殴り合いか?」
「鯉登さんのお兄様を相手にするというのも気が引ける上、さすがに女のナマエを殴ることはできないぞ。」
勝負という言葉に、平之丞と月島が反応する。
「いや、勝負と言っても、そんな殴り合いみたいに物理的なものじゃなくてさ!鯉登とどういう誕生日を過ごしたいのか、3人のアイディアを発表し合って、最終的に誰と誕生日を過ごしたいのか、鯉登に決めてもらうっていうのは?」
「た、たしかに…?」
「いいかもしれんな。」
咲良と平之丞はこの膠着状態から抜け出す方法として、杉元の妙案に前向きな姿勢を見せる。
一方、一年間準備していた月島は、これでもしも自分が祝えないことがあれば、、、と苦渋の表情を見せるが、最終的には杉元の「ね?ね?」という圧力に押し切られる形で、渋々了承した。
「じゃあ、来週の金曜このメンバーで集まって、鯉登の誕生日のお祝い計画のプレゼン大会しよ!名付けて、第1回コイトオトノシン争奪戦!!俺、貸会議室の予約しておくから。アピールしたいものとか、資料とかがあるなら自由に持ってきてね!!」
「ちょ、杉元!勝手に決めるな!楽しんでるだろう、お前!!」
音之進は杉元へ食って掛かるが、またいつものことかと杉元は乱暴に切り上げる。
飲み会の幹事である杉元は、それと同時に飲み会もお開きとした。
「今日はありがとうございました。じゃあ、私帰りこっちなんで…。」
「気を付けて帰っど。また来週。」
「お兄様は○○線ですよね?では、自分もここで。」
そう言って3人は別れた。
心の中で熱い闘志を燃やしながら。
平(2人には悪かが、音んこっは誰よりもおいが知っちょい。)
月(1年かけて練りに練ったこの計画、無駄にはできない!)
ナマエ(お兄さんと月島さんには悪いけど、普通彼女がいたら彼女と過ごすものじゃない?)
平、月、ナマエ(((絶対に負けられない!!!)))
そう。今ここに、戦いの火蓋は切られた。
勝つのは、平之丞の兄弟愛か、月島の上司愛か、ナマエの恋愛か————。
「おい、みんなはどこだ?」
居酒屋に肝心の主役・音之進を置いたまま、3人は来週の誕生日のお祝い計画プレゼン大会、言い換えればコイトオトノシン争奪戦に向けて準備をするべく、熱い決意のまま足早に家に帰るのだった。