きみと見上げた空は
「ナマエ、だいじょっよ。おいがしっかい掴んじょっで。」
「いや、流石にこの斜面でボードつけて起き上がるのは無理!」
「じゃっどん、起き上がらんな下まで歩っことになっど?」
彼のいうことは最もだけど、無理なものは無理なんだ。嗚呼、なぜ、私は上級者コースに果敢にも挑戦してしまったのか。
硬くて冷たい雪の上で、尻もちをついた私は猛烈な後悔に苛まれる。
ほとんど肌だって出ていないはずなのに、吹き付ける空気は冷たく、顔がとても痛い。
あたりは一面の銀世界で、視界には無造作に転がった可愛らしいスノーボードと、まばらな人、はるか向こうに見える山々しか見えなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ショッピングモールに入っているあたたかいカフェで、彼氏である音くんと冬のデートどうしようか、という話をしていたのは、数週間ほど前だ。
寒い日が続く冬は、デートの行先を考えるのがとても難しい。
外デートはなにぶん寒くてテンションも上がらないけれど、屋内デートは屋内デートでレパートリーはそんなに多くない。
デートの行先がマンネリ化してきた頃、彼から「スノボとかスキーに一緒に行くのはどうだ?」とお誘いを受けた。
聞けば、彼は毎年家族でスキー場に行くのが冬の習わしで、そこそこ滑れるという。
私もこれと言って得意というほどでもないが、2~3年に1回滑りに行くくらいには全くできないというわけでもないので、じゃあ一緒に行こう!となった。
私も音くんも好きなスノボをすることに決めて、その場で音くんには宿泊先のホテルの予約もお願いしたのである。
そして、いよいよスノボ旅行当日。
音くんはスタッドレスを履いたご実家の大きな車で、朝私の家まで迎えに来てくれた。
私が車の後ろに回り、トランクを開けて泊まりの荷物を入れようとすると、音くんが重たい荷物をひょいと私の手から奪って持ち上げて積んでくれる。
彼の腕と身体の隙間からは、既に入っている音くんの自前のウェアやブーツ、ボード、小物の類が見えて、私は少し恐れおののく。
全てプロ仕様の上等なものだ。
私、普通にレンタルしようと思ってたんだけどな、と思っていると、私の気持ちに気づいたのか、彼はトランクにたくさん積まれた荷物の中から、「ほら」と白くて可愛らしい包みを出して私に見せる。
「これは?」
「もちろん、ナマエんウェアや小物も用意してきた。ボードとブーツもこっちにあっど。」
そう言って、彼が指さす先には確かにこれまた可愛らしい色のボードと、彼の足のサイズよりずっと小さいブーツが積まれている。
それを見た私は、ふふっと笑って助手席に回り、車に乗り込む。
すぐに全て荷物を積み込んだ音くんも、運転席に乗り込んできた。
「よく私のサイズわかったね?」
「ずっと一緒におりゃ、それくれわかっど。」
当然というような表情の彼は、慣れた手つきでギアを入れ替えてサイドブレーキを下ろすと、車を発進させた。
あらためてこれまでの2人の旅行などを思い返すが、音くんが運転するところは、初めて見たかもしれない。
いつもタクシーで移動することが多いからなぁ。
チラッと横目に運転する彼の顔を見ると、きりっとした目つきで真剣に運転しているものだから、私はどぎまぎしながらも、ついその端正な顔立ちに見とれてしまう。
「む? どした?」
私の視線に気づいた彼が、前方を確認しつつこちらを見返す。
運転中の真剣な表情から一転、助手席の私に向けられる彼の顔は優しい。
「ううん、なんでもない!」
運転する姿がかっこいいから見とれてました、なんて言えない私は、目線をぱっと左の窓にそらす。
外は冬らしい快晴。ウィンタースポーツにはぴったりの日だ。