「はー!お腹いっぱい!」
部屋食がひととおり片づけられると、私は満腹感のあまり後ろに手をついて天井を仰ぎ見る。
1日中身体を動かして酷く空腹を感じていたのと、見た目も味もとても美味しい料理だったので、ついたくさん食べすぎてしまった。
ふぅっと息をついて、ゆっくりと視線を目の前に移すと、早くお風呂に入りたそうにうずうずして落ち着かない様子の音くんがいて、かわいさのあまり私はふふっとわずかに笑いがこぼれてしまう。
「? ナマエ、そろそろお風呂に入らんか?」
「そうだね、遅くなっても明日が辛いし。」
時計を見るともう21時だ。
私はどっこいしょと立って、重い身体を引きずりながら自分の荷物からお風呂セットを取り出し、お風呂に入る準備をする。
音くんは早く入りたそうにしてただけあって、準備は既に終わっているようだ。
手持ち無沙汰な彼は、何やらこそこそ露天風呂のドアを開けては外で何かを確認し戻るという、不審な動作を繰り返している。
「音くん、私もすぐ行くから先に行ってていいよ。」
その様子から、早くお風呂に入りたいのかな?と思った私は彼に先にお風呂に入るよう言う。
「わかった。」と言って先に行く音くんの2~3分後、彼を追うようにして、客室の奥にある露天風呂に向かうと、こじんまりとした脱衣所で服を脱ぐ。
お風呂セットを抱えて身体にタオルを当てた私は、そっと露天風呂へのドアを開けると、彼がお楽しみと言っていた意味がようやく分かった。
「わ~! すごい!!」
露天風呂の真上にある漆黒の夜空には、たくさんの星が瞬いていた。
まるでプラネタリウムみたいだ。
冬で空気が澄んでいるからだろうか、それとも明かりが何もない山奥から見ているからだろうか。
いや、どちらもだろう。
これほどまでに綺麗な満天の星空を、私は見たことがない。
「はよ浸からんな風邪ひいてしまうど。」
夜空にくぎ付けになっている私に向かって、お風呂から手招きしている彼。
たしかに、寒いから口から吐く息も真っ白だ。
私もかけ湯をしてゆっくりとお風呂に入ると、愛おしい彼の隣にそっと腰を下ろす。
周囲は山に囲まれ、静寂の中、お風呂の水音だけがあたりに響く。
「音くんが言ってたお楽しみってこれのこと?」
「ああ。ナマエと一緒に見ろごたったで、どっちかちゅうと、おいのお楽しみじゃがな。」
「そんなことないよ。こんなにきれいなの初めて見た。」
瞬きを忘れ夜空を見上げている私の腰に、隣にいる音くんがそっと抱くように腕を回すと、後ろから包むようにハグされる。
彼の手が私のお腹の上をすべり、私は思わずくすぐったく感じて身を捩るが、それは大きな体躯によって阻まれた。
彼に後ろからぎゅっと優しく抱かれながら、「すごいね」「きれいだね」というありきたりな言葉でしか感想が言えない自分にもどかしい気持ちになる。
でも、この感動を音くんと分け合いたかった。
「今日は晴れちょっし空気も澄んじょったで、いっそうきれいに見ゆっち思うてずっと楽しみやったんだ。」
自信満々の笑顔で、夜空を見上げる彼は、私の耳元で低く囁く。
振り向いて彼を見ると、いつもしっかり整えられた髪の毛は湯気のせいか乱れていて、汗が伝っている首元には襟足の髪が少し張り付いている。
その横顔がいつもよりもかっこよくて男らしく見えて、私は身体ごと横に向けて彼の厚い胸板に自分の顔を埋めた。
今日はかっこよくて頼りになる音くんをたくさん見せてもらったな。
「今日はありがとう、音くん。大好き。」
そう小さく呟くと、彼は「おいも、」と優しく微笑みながら呟き、あごを掬い上げるようにして私を上に向かせると、優しいキスの雨を降らす。
お風呂の湯けむりがもくもくと立ちのぼる中で、彼がくれる愛の数々を一生懸命受け入れた。
私の手は彼の手に捕らえられて、逃がさないというようにぎゅっと握りしめられる。
何度も熱を分け合うようなキスを重ね、唇同士が離れると、真っ黒な夜闇の中に2人の白い吐息が湯けむりとともに立ち上っては消えていく。
相変わらず静寂に包まれた外は、お風呂の水音と私たちの話し声しか聞こえないが、一度火が付いた身体はもう寒くない。
それどころか、腰に彼の硬いものを感じて、ますます私の体温は上がるばかりだ。
はたして、明日スノボができるくらいの体力は残っているのだろうか…。
これからはじまる夜の戯れを意識して胸がいっぱいになった私は、後ろに座る愛おしい彼を力いっぱい抱きしめた。
END
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