音くんと一緒に中級者コースを滑って下ってきたときには、すっかり陽が沈んで辺りも暗くなっていた。
スキー場の更衣室でウェアから着替えた私たちは、一旦車に荷物を取りに行くと、スキー場の隣に併設されたホテルにチェックインする。
音くんはもっと上級者コースでガンガン滑りたかったはずなのに、結局最後まで私に合わせて一緒に滑ってくれた。
「楽しかったね~」と彼と話しながらホテルの廊下を抜け案内された部屋に入ると、そこはまさかの露天風呂付の客室だった。
客室自体も今までの私が止まったホテルは何だったのだろうかと思うくらいずば抜けて広くて、完全にスノボメインの旅行だと油断してた私は、開いた口がふさがらない。
「ナマエ、どげんした?」
ぼんやりと入口に立ったままの私に、心配そうに音くんが聞く。
「いや…、めっちゃ良い部屋だな、と。」
「2人ん旅行なんじゃっで当たり前じゃろ?」
音くんはホテルの部屋の居間にあたる部分に置かれた低めのテーブルの前にどかっと座ると、「ほら、ナマエもそげんところに突っ立っちょらんで、こっちに座れ。」と明るく言う。
言われたとおり、私は挙動不審な様子で広い部屋をきょろきょろ見回しながら、音くんと向い合せで座った。
部屋はとても静かで、2人の間にはしばし沈黙が流れる。
「…そういえば、部屋食は18時からだよね? もう17時半だし、食べてからお風呂入る?」
「そうじゃな。しかも、夜にはお楽しみがあっで。」
「お楽しみ…?」
そう自慢げに彼は言うが、彼のプランをまったく知らない私は、彼がなぜそんな自慢げな顔をしているのかよくわからない。
「お楽しみ、って何のこと?」と私が聞いても、「あとん秘密じゃ。」ふふんっと言いたげな顔で彼は答えをはぐらかす。
なんだかよくわからないけれど、まぁ、本人が楽しそうならいっか。
私は音くんの分まであったかいお茶を淹れると、2人でゆっくりお茶をすすってぽつぽつとおしゃべりしながら、部屋食の到着を待った——。